「ガードレール設置」はクルマ中心の思想 ~第10次戸田市交通安全計画案~

交通と自転車, 安全と防災]2016年7月19日(火)

戸田市における今後5年間(H28年度~H32年度)の交通安全施策の大綱を定める「第10次 戸田市交通安全計画(案)」のパブリックコメントが始まっています。

 

前回の第9次計画との大きな変更点は、ハード面(インフラ整備)とソフト面(交通安全啓発)の双方において、「自転車」に関する施策が拡充され、新たに項目立てされたことです。

 

このこと自体は、自転車と歩行者の安全確保のために良いことなのですが、実はこの変更は、戸田市独自のものではなく、戸田市の計画が準拠している埼玉県の「第10次 埼玉県交通安全計画」、さらにもとを正せば、埼玉県の計画が準拠している国の「第10次 交通安全基本計画」においてなされたものです。

 

むしろより注目すべきは、今回の戸田市の第10次計画のなかの歩行者安全確保策から、「ガードレール設置」と「カーブミラー設置」が外された点です。
これは、国や埼玉県とは異なる、戸田市独自のものです。

 

歩行者をクルマ等との衝突から守る施策はいくつかあります。
主なものとしては、①広い歩行者空間の整備(それにより歩行者とクルマとの距離を空ける) ②クルマの速度抑制(=車道を狭くする、車道を蛇行させる、車道に凸凹を設置する、車止めを設置する等)です。
これらの施策は、国、埼玉県、戸田市のいずれの計画にも含まれています。

 

一方で、「ガードレール(車両用防護柵)の設置」も、歩行者の安全を確保する有効な施策であると思われがちですが、これは上記①②の施策とはまったく逆の思想に基づいています。

 

例として、歩道ではなく路側帯(=白線で仕切られた歩行者空間)がある道路を考えます。【画像参照】
その路側帯が、歩行者の空間としては狭く、クルマとの接触の危険性がある場合、歩行者の安全確保策としては、上記①②の「路側帯を広くする(車道を狭くする)」「クルマの速度抑制の注意喚起」などの施策がとられます。(実際に戸田市の道路では、そのような道路改良が進められています。)

 

しかし、そのような施策の代わりに、「ガードレール設置」という方法がとられると、どうでしょうか。
まず、ガードレールの分だけ歩行者空間が狭くなり、またガードレールで道路が区切られてしまうことで、状況に応じた道路空間の共有ができず、「歩行者にとって歩きにくい空間」となっていまいます。ベビーカーやシルバーカー、車イスなど、一定の幅がある方にとっては尚更です。
次に、ガードレールにより、歩行者空間が車道から分離されることで、歩行者にとってもクルマにとっても一見“安心”となり、それが結果的には「クルマの速度促進」を招きます。安全は安心を生みますが、安心は安全を生みません。
(なお、カーブミラーの設置も、クルマ運転者の安心を生むという点で同様です。以下のリンク記事をご参照ください。)

 

つまり、同じ歩行者安全確保策でも、上記①②は“歩行者中心”の思想に基づくものであるのに対し、ガードレール設置は“クルマ中心”の思想に基づいています。

 

あまり知られていない事実ですが、ガードレールが道路にここまで設置されているのは日本特有です。
そして、交通事故による死者数において、クルマ側よりも歩行者側の方が多い国は、先進国のなかで日本だけです。

 

【参考】2012年の交通事故死者数
・ドイツ クルマ側1,791人 歩行者側520人
・イギリス クルマ側 831人 歩行者側 429人
・日本 クルマ側 1,088人 歩行者側 1,904人

 

日本では、地域住民やお子さんの通園通学を心配される保護者等から、「ガードレールの設置を」と求める声が上がることが多いのですが、本当に歩行者の交通事故を減らすのであれば、「歩道を広く、車道を狭く」などと求めるべきです。(その分、みなさんがクルマ側になった場合の利便性は減ります。)

 

日本より先にクルマ社会となった欧米の国々は、いまではクルマ社会から脱却し、歩行者中心のまちづくりを進めています。
日本がクルマ社会となったのは、ほんの50年ほど前です。その少し前の江戸時代では、馬車の使用が禁止されており、江戸は徒歩中心のまちでした。

 

今回の戸田市の計画変更を私は大いに評価し、今後戸田市で歩行者中心のまちづくりがさらに進められていくことを期待します。

 

以下は、戸田市交通安全計画からの抜粋です。

 

「第9次 戸田市交通安全計画」
第3章 3(1)歩行者の安全確保
歩行者の死傷事故発生割合が大きい生活道路においては、道路構造や交通流量の状況を勘案したガードレール、カーブミラー、標識など総合的な交通事故抑止対策を推進します。

 

「第10次 戸田市交通安全計画(案)」
第3章 1(1)生活道路における交通安全対策の推進
交通事故発生割合が大きい生活道路においては、車両速度を抑制する道路構造や注意喚起により、歩行者や自転車が安心して通行できる道路空間の整備を推進します。

 

第10次戸田市交通安全計画(案)パブリック・コメント(戸田市公式サイト)

 

一時停止線の先の白い点線 2015/3/24(真木大輔公式ブログ)

 

※画像引用元:ガードレールは誰のため?(歩行者の道)

 

 

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