中学生の半分は教科書を読めていない ~リーディング・スキル育成事業~

教育]2016年7月2日(土)

さて、ここで問題です。

 

《説明文》(←中学校の地理の教科書から引用)
仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アメリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている。

 

《問題文》
オセアニアに広がっているのは(   )である。
①ヒンドゥー教
②キリスト教
③イスラム教
④仏教

 

人はこの問題をどのように解くのか、3つのタイプに分けてみます。

 

【タイプ1】真面目タイプ

 

このタイプは、説明文を精読してから問題に答えます。

 

どういうことかと言うと、

 

●仏教・・・東南アジア、東アジア
●キリスト教・・・ヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニア
●イスラム教・・・北アメリカ、西アジア、中央アジア、東南アジア

 

という分布があることをきっちり頭に入れたうえで、問題文が問うている「オセアニアに広がっている宗教」に答えます。

 

このタイプは、正解はできるものの、解答するまでに時間がかかります。それは、解答するのに不必要な情報(イスラム教の分布など)まで頭に入れているからです。

 

【タイプ2】優秀タイプ

 

このタイプは、説明文を大まかに把握したうえで問題にあたります。

 

どういうことかと言うと、

 

「いくつかの宗教が、それぞれ複数の地域に分布している」という説明文の主旨を理解したうえで、問題文が「オセアニアに広がっている宗教」を問うていることを確認し、もう一度説明文に戻って解答を得ます。

 

このタイプは、最短で正解に辿り着くことができ、また、解答するうえで不要な情報を頭に入れることもありません。

 

【タイプ3】誤答タイプ

 

このタイプは、そもそも、説明文の意味を理解することができません。ということは、問題文で何を問うているかすら理解できていません。

 

そうなると、解答として、とりあえず説明文の文頭にあって目立つ「仏教」や、もしくは問題文の「オセアニア」という単語に隣接する「イスラム教」を選ぶなどの行動をとることになります。(もちろん、偶然に正解を選ぶこともあり得ます。)

 

**********

 

さて、私の(文章ばかりの)投稿を読んでくださっているみなさんのことですから、正解が「②キリスト教」であることはお分かりだと思います。

 

では、日本の一般的な中学生(2年生~3年生)はどうか。
以下の解答結果をご覧ください。

 

①ヒンドゥー教 0%
②キリスト教 53%(←正解)
③イスラム教 12%
④仏教 35%

 

つまり、「中学生の半分は文章を読めていない」ということです。

 

この事実自体は目新しいものではなく、私が予備校講師を務めていたとき、何人もの数学講師から、「数学を解く以前に、まず問題文が読めていない。」との嘆きを耳にしていました。

 

ただ、今回の問題文が中学校の教科書から引用されたものであることから、「少なくとも中学生の半分は教科書を読めていない」ということがこの調査から明らかになったわけで、これはかなり衝撃的です。

 

話は変わり、みなさんは「東ロボくん」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトによって開発された人工知能ロボットで、プロジェクト開始から4年余りで、すでに大学受験模試で上位2割の成績を収めるにまで至っています。

 

この人工知能は、暗記や統計的処理、検索、データの最適化などを行うことには長けているものの、「文章の意味を理解する」ことは苦手です。
大学受験模試で(平均より多くの)問題が解けるのは、説明文や問題文を理解しているからではなく、問題文から導かれる正解の傾向を統計的に把握しているからに過ぎません。

 

では何故、文章が読めない東ロボくんに多くの受験生が負けてしまうのか。
それは、「受験生も文章を理解できていない」からです。
つまり、東ロボくんに負けた受験生は、文章が読めないという点では人工知能と同じだが人工知能ほどの分析能力は持っていなかった、ということです。

 

将来、人工知能(artificial intelligence、AI)が人間から多くの職業を奪うと予測されていることに対しては、教育界でも懸念が示されていますが、では人間にできることは何かとなると、現時点でまず言えることは、「文章を理解できるようにする」ということです。

 

以上、長い前ふりでした。

 

東ロボくんの開発を進めている国立情報研究所では、今年度から、日本で初めてとなる「文章を読める力(=リーディング・スキル)」に関する研究を本格的に実施します。

 

そして、その研究のパートナーとなるのが、戸田市です。

 

先月に開催された戸田市教育委員会定例会において、「リーディング・スキル」の調査・育成事業に関する報告があり、その報告によると、この事業を実施することに対する戸田市校長会の反応はとても良かったとのことです。
校長先生方のなかにも、子供たちが文章が読めていないという認識があるのかもしれません。

 

さらに、私が見る限り、大人であってもリーディング・スキルの欠如した方はいます。
リーディング・スキルが無ければ、人の言っていることをきちんと理解することができず、それは仕事をするうえでも支障になります。
逆に、リーディング・スキルさえあれば、どんな仕事であっても、うまく人と協調しながら、ある程度はこなせます。

 

国も注目しているリーディング・スキルは、日本の公教育のみならず、塾や予備校・一般企業の人事担当など、教育に携わる多くの方にとっての大きな関心事となる可能性を持っています。
その研究の最先端に戸田市がいることは素晴らしいことです。

 

そして、この調査からどのような結果が出て、それに対してどのような教育手法が考案されるのか、私自身がとてもワクワクしています。

 

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